記憶のミライ
記憶のミライ
写真撮影:露口啓二
2020
8ミリフィルム→デジタルへ変換映像(5種類 総計40分)
プロジェクター5台、布スクリーン4面、水槽(鉄製)、水道管、水、
8ミリカメラ、8ミリ映写機など機材も展示
札幌文化芸術交流センター SCARTS公募企画事業に採択
8ミリフィルムを提供していただいた皆さん
渥美誠一、泉博、河西聡子、神田武宏、小橋ひろみ、小林昌三、斉藤歩、坂尻昌平、佐藤朋子、佐藤あけみ、佐藤孝子、札幌市交通局、瀬川博之、鈴木憲子、中村和子、20世紀フィルムアーカイブ仙台、藤咲啓子、藤田正志、藤田倫子、星野洋子、渡辺典子(五十音順)
「記憶のミライ」チーム
全体設計/丸田知明 映像編集/中野均 企画協力・小道具制作/小林大賀 デジタル変換/山本敏、ユニプラス 機材展示/登別映像機材博物館 音楽/井上大介 演奏/扇柳トール 録音/佐々木“コジロー”佳久 スタジオ/河野音響 音響機材設置/ナッツハウス 水槽制作/アイハラ製作所 全体ディスプレイ/ゼン 水道設置/池田工機 デザイン制作/3KG 企画協力/中島ひろみ、中島彌生 制作事務/シアターキノ
主催:中島洋、札幌文化芸術交流センター SCARTS(札幌市芸術文化財団)
北海道芸術学会WEB
創作ノートに「記憶のミライ」の企画から制作過程について書きました。
是非ご覧ください。
「記憶のミライ」をVR空間に再現しました
*バーチャルSNSサービス「cluster」を利用しています。初めての方はこちら を御覧ください
札幌という街は、どんどん発展し変貌を続けていますが、歴史が浅いと言われる札幌でも、その根底には市民による毎日の小さな暮らしの積み重ねがあります。名もなき市民の小さな営みが実は大きな波となって札幌の歴史を作っています。そして、私たち人間は記憶を積み重ねて生きています。数ヶ月で細胞が入れ替わるように、私たちの体は日々変化しています。記憶もまた細胞が新しいエネルギーを生み出すように、積み重ね変化することによって、新しいミライを作り出していきます。そうやって、私たちは、長い歴史の中で、少しずつ記憶という知恵を活用する術を覚えてきました。
今回の市民参加型アートプロジェクト「記憶のミライ」では、市民の皆さんから記憶の積み重ねの一つである8ミリフィルムの映像を提供していただき、その風景や生活、そして文化という営みの知恵を、現代また次世代へつないでいくための芸術表現として創作します。8ミリフィルムをデジタルで変容させた映像が会場全体に映されています。それはちょっと不確かなように少し揺れたりしています。また人間の体は60~65%を水がしめています。蛇口から一滴、一滴落ちる水は、積み重ねられた私たちの歴史でもあり、水の中を浮遊する多様な8ミリフィルムは、人間の細胞のようでもあり、一人一人の人間であるかもしれません。
ご覧になる皆さんが、記憶の渦の中にそれぞれの記憶や想いを、そっと加えていただければ嬉しいです。私たちはこうやって積み重ねられた歴史の渦の中を揺れ動き、歴史の一コマ一コマに参加してきたのです。それはこれからのミライにつながり、そしてまた参加していくのです。
私なりのステートメント
7/11(土)と12(日)にお越しいただいた方々から感想などもいただき、私なりにわかってきたことがあります。
当初の編集方針は、ボードやチラシにもありますように、札幌の昔の風景や生活文化、行事などをまとめて、市民が積み重ねてきた歴史を表現してみたいと思っていましたが、応募いただいたたくさんの8ミリフィルムを観ているうち、子どもたちや登場する人々の、あまりに自然な表情に引き込まれていく私がいました。
そのことによって、人を中心に編集していくことに途中から変わっていきました。そして、はじめの編集ではデジタル技術を多用して、8ミリとデジタルの融合的な映像編集が中心的なものでしたが、何かが違うなあという感覚があり、再度編集をやり直すことにしました。サジェスチョンをくれた人の言葉で言えば「情報量が多すぎて、大切なものが映っていない気がする」です。そこで大切にしたのは、オリジナルの原型をできるだけそのまま残して活かすようにすることです。その結果、今回のように4面と水槽に映す5つの映像によって、情報ではなく、提供いただいた市民のみなさんの映像の集積になっていき、目指していたものになっていきました。
アーティストは、直感力や想像力から創作していくことが多く、分析などはあまりしないものですが、はじめの二日間の方々と話たりする中で、他人のフィルムであっても、何か自分ごとのように、感じていただいている方が多く、そんなみなさんと話しているうちに、私なりにわかってきたことがあります。特に応募いただいた8ミリをひたすら観ている時や、編集と制作の準備をしている時は、まさに新型コロナの感染が広がっていく時でした。
★ここにある世界は、新型コロナ感染状況で、私たちが今共有を強いられているソーシャル・デスタンスとは真逆の、その距離の近さにあること。まさに密な世界なのです。
★グローバル社会の中で世界の大きさと成長が語られる中で、むしろこの小さな世界、暮らしを大切にした生き方こそが、今の状況下で大切なのではないかと感じられることです。
新型コロナと共生していくことになるであろうこれからの社会は、小さなコミュニティ、ネットワークを大切にし、その外側に、SNSやリモートで結びついている、そんなことを展示中の今、感じています。ここにある世界は懐かしさや思い出だけのためではなく、これからの私たちが生きていくための知恵と工夫になるものがいっぱい詰まっていると思っています。布スクリーンの部屋の中で体ごと感じていただき、また外側からは個別の映像をじっくりとお楽しみいただけたらと思います。
2020/7/13 中島洋
外岡秀俊(ジャーナリスト・作家)さん
運動会で号砲を待つ少年の真剣な目。ちゃぶ台を囲んで年越しソバをすする一家の弾ける笑顔。日差しを浴びながら雪かきをする丹前姿のお父さん。 20日まで、札幌市民交流プラザ2階のSCATSスタジオで開かれた「記憶のミライ」展では、そんな8ミリフィルム映像が流れた。
箱型に囲む4面の映写幕の中に入ると、自分の体が過去に持ち去られる気がした。もうあの日には帰れない。でも確かに存在していた。そんな郷愁をそそる懐かしい光景が4面に映った。 制作したのは中島洋さん。シアターキノ代表だ。
歴史は、ごくふつうの市民の日常の積み重ねで織られている。それをアートで表現できないか。 中島さんが選んだのは、かつて映像制作で親しんだ8ミリだった。札幌圏の市民に呼びかけて昔の8ミリを募集し、33人から247本の提供をうけた。
1950~80年代半ばまで、45時間分のフィルムを全て見て5時間分をデジタルに変換し、約一時間の作品に編集した。 「初めは昔の暮らしや歴史を再現しようと思っていた。でも、家族をとらえるカメラの親密な目線や、自然な表情に心を奪われ、まったく違う作品になった」 フィルムを見たのは6月1日まで、コロナ禍でシアターキノが休館した時期に重なる。
「8ミリに残っていたのは、ソーシャルディスタンスとは限りなく遠い『3密』の世界。だからこそ、余計に心をひかれた」 今回の展示で中島さんの念頭にあったのは、「古民家を改装したカフェ」のイメージだった。古いものや、昔の知恵を忘れず、未来に活かす。それが「記憶のミライ」の意味だ。 8ミリはキメが粗いし、不鮮明だ。だが、その分だけ、撮り手の感情が前面に出て、想像力をかき立てる。
「フィルムの良さ、デジタルの良さがそれぞれにある」 会場で8ミリカメラを展示していた山本敏さんは、登別映像機材博物館を運営している。今回、フィルムの質感の奥深さを改めて感じたという。 「あまりに鮮明なデジタル違って、フィルムでは全てを見せない。隠れた奥行きを感じる」
*朝日新聞2020年7月23日朝刊道内面の外岡秀俊さん「道しるべ」より抜粋、転載承認番号「20-3076」。
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